フィールドフォースの社長・吉村尚記がインスタグラムで突然、「ものつくり大国日本再生計画」なる発言をしたのが6月。なんという大風呂敷! という周囲の動揺をよそに、プロジェクトは着々と進んでいるようなのだ。そんなプロジェクトの現在地を取材すると…。
日本のものづくり力を発信したい!
これまで多くの野球用品や、練習ギアを開発し、世に送り出してきたフィールドフォース。それらの製品は主に、国内で企画・開発し、中国の工場で製造する、という流れで商品化されてきた。
「外部の方からも、それがフィールドフォースのものづくりだと思われてきたんじゃないかと思うんです。実際、創業当時からのスタイルではありますし、いま現在も、その形での商品開発と製作がほとんどではあります。ただ、それが決まった形というわけではないんです」
吉村が説明する。
「たとえば、おかげさまで好調な売れ行きが続いている、学童野球用のキャッチャー用レガース、プロテクターなんかは、日本国内の工場にお願いして、製作してもらっていますしね(⇒こちら)。『ものづくり大国』といわれるわが国には、これまでに培われてきた、驚くほどのポテンシャルを持った会社がありますし、技術力が高く、面白い取り組みをしている町工場だって多い。そうしたところとコラボさせてもらうことで、これまでにない商品づくりができるんじゃないかと思っているんです」
多くの会社を知り、人と出会う中で、吉村はそんな考えを抱くようになっていたのだという。つまり、「再建計画」とは、まだ見ぬパートナーと組むことで、これまでにない、新しい「何か」を創り出していこうという取り組みなのだ。
国外製造の比率が高いフィールドフォースにとっては、折からの円安の影響も大きく、これも吉村の思いを後押しする要因となった。
「3年前に始まった円安には、大きな影響を受けましたからね。為替や外的要因に左右されない、会社の基盤を作りたいというのもあります」
吉村が続ける。
「これはフィールドフォースだけの話ではないとも思うんです。日本の“ものづくり力”のすごさを形にして、打ち出してゆくことが、地盤強化につながると思うんですよね」
思いを持った人たちとの出会いを大切に
反応は予想以上だった。
吉村の呼びかけに対して、早速、何通かのメールが届いた。もともとスポーツ関連分野の製品も手がける関西の素材メーカーもあれば、異業種ともいえる、特徴ある技術を持った北陸の建材メーカーも。
「ありがたいですね。こうした、『思い』を持った人たちとの出会いは、何よりも大切にしたいと思うんです」
と吉村。即座に折り返して連絡し、現地に飛んだり、来京の際に本社に招くなどして、次々と実際に顔合わせをした。
「インスタで見たとおりの人ですね!」
そんなあいさつも早々に、自己紹介代わりに、互いの会社の商品をプレゼンし合う、というやり取りが始まるのだった。
事前のメールによるやり取りは主に、自社の持つ製品や技術を生かして、こんな野球用品が作れないだろうか? というもの。実際に会うときには、すでにその製品が試作されていたり、使用テストが行われているケースまであり、熱量の高さは予想以上だ。それだけに、まずは持ち帰って……などという運びになることはなく、ほとんど即決のような形で、製品化に向けての具体的な相談が始まることになる。
それだけに限らない。互いの既存製品について説明を受けると、次々と「こんなこともできるのでは?」と新たなアイデアが提示され、事前に申し出を受けていた、ひとつの商品開発の話題に限らない、言ってみれば“建設的な脱線”が始まるのも常なのだ。
それぞれの会社とフィールドフォース、互いの得意分野や技術を持ちよることで生まれる、あるいは形にすることができそうな商品アイデアを自由闊達に、ひと通り提示し合い、一旦解散。以降も滞ることなく(早ければ翌日にも!)、社内プロジェクトの進捗状況報告といったやり取りが続くのだった。
こちらからも連絡させていただきます!
これらのケースと逆に、吉村からコンタクトをとることで、関係性が始まった会社もある。
そのひとつが、フィールドフォース本社ともほど近い、千葉県白井市に本社を置く田中工業。側溝の蓋として用いられる「グレーチング」の製作実績が著名な、溶接を中心に金属加工を行う会社だが、NTT東日本野球部の室内練習場に設置されていた、同社製作による金属製土台のピッチングマウンドに、吉村が一目ぼれしたのだった。
営業課長の田中さん、設計担当の田村さんが野球経験者ということで、「Tuf Cage」のブランド名で、バッティングケージやネットなども多く手掛けている同社。フィールドフォースの存在を知っているだけではなく、商品ラインアップにも詳しく、さらに、吉村とは共通の知り合いや、製品利用者が多いことも判明したのだった。
学童野球選手をターゲットにした、アイデア満載のギアを製品化するところからスタートしたフィールドフォースに対し、田中工業は高校野球部や社会人野球の顧客に向け、頑丈さと耐久性を前面に押し出したラインアップを展開する。
製品クオリティの高い田中工業製の金属部品と、フィールドフォースが手がける非金属材料を組み合わせることで、これまでとは違う、新たな路線の商品が誕生する日も近そうなのだ。
すでに試作段階にある製品もいくつか。これまでの商品とはまた違う、しかしフィールドフォースらしく、「ほかに似たものがない、唯一の」商品がラインアップに加わることになるはずだ。
「1+1」が「2」以上に
こうして始まった、大きなプロジェクト。近しい分野の企業との、新たなタイアップの形もあれば、これまで野球とは無関係の会社で、熱い思いを持った社員が、フィールドフォースとの出会いをきっかけに、すでに新たなプロジェクトを立ち上げてしまったというケースもある。
どのケースでもいえるのは、すでに「さまざまなアイデアを形にする」フィールドフォースという会社の存在を認知してくれていること。
「おそらく、ウチのこれまでの商品や取り組みを見ていてくれて、『フィールドフォースなら形にしてくれる』『フィールドフォースなら何かやってくれる』と期待してくれていると思うんです。本当にありがたいことです」
そしてもうひとつ、これまでとは違う一面もある。
これまでは、フィールドフォースの社内で出たアイデアを形にすることで、いくつもの商品を創り出してきたが、新たなパートナーと出会うことで、これまでは生まれることがなかったであろう、新機軸の商品が生まれる可能性もあるのだ。
「中国とのやり取りではどうしても、こちらが指示、あるいはお願いをして、それを向こうが形にしてくれるという関係性になります。それはそれで、ありがたくはあるのですが、中国には日本のようには『野球』という文化がないから、こちらがお願いした以上のものは出てきませんよね」
吉村が言う。
「日本国内のパートナーだと、そこが違ってきます。それぞれの技術、それぞれの思いを持ち寄り、さらに深堀りして、話し合うことができるんです。それによって、1+1が2以上になることだって可能だと思うんですよね」
おそらくは、これこそがこのプロジェクトの本質なのだろう。
これからどんな商品が登場するのだろうか。これまでのフィールドフォースとは、ひと味違うものが出来上がることを楽しみに、もう少し待ちたい。